オレンヂ 2volcano as 藤島一種架 さん作









――俺は連日のように夢を見る。







ちくちくと身を刺すのは周囲の茂み。
風が吹くと乱数で俺に1ダメージを与えてくる自然が作り上げたトラップのようなものだ。
もっとも、この階層に来ることの出来る連中には、取るに足らないダメージでしかない。
それでも、あえてこの茂みの中を突っ切ろうとする奴など居ないだろう。
何時如何なる時、そのちっぽけなダメージで己の命運がかかってくるやも知れぬ世界だ。
まぁだからこそ、あえて俺はこの場所に潜伏しているのではあるが・・・

 「お願い信じて――」

茂みのすぐ向こう。
今にも泣きだしそうな相棒の声が聞こえた。

 「――フラグPKって奴か。」

相棒のすぐ側から、聞いたことのない男の少し掠れた声がする。
距離は、茂みから出て10歩程度。
敏捷を何より重点的に鍛えている俺には、まさに一足の距離だ。

 「うん! 私だって望んで殺したりなんか・・・できない。」

カタナの柄を握り直そうとし、何時しか掌に浮かんでいた汗に気づく。
それを衣服になすり拭いながら、俺は相棒の声を悦しむ。

 「フラグPK?」

男の居ると思われる場所のすぐ側、おそらくは彼の仲間なのだろう。
声から察するに、俺の相棒にも言えることだが、珍しい女性プレイヤーのようだ。
よほど可愛がられていたのだろう、少し幼い感じのする彼女の声からはPKすら知らぬ素振りが伺える。

 「プレイヤーキル。 ゲーム内での人殺しの事さ。」

この声で3つ目。
最初の男よりも少し若い目の声。

 「え?! でもそれって――」
 「茅場の野郎の言ってることが真実なら、な。
  まぁ元々、この手のMMOには、好んで人を殺す連中はいるんだよ。」
 「だったらなお更――」

 ナニカ言ッテル。

茂みの先にいる女は、あっちの世界でもよほど箱入りだったんだろう。現実というものが見えていない。
そういった状況だからこそ、なんだよ、そういった連中はな。

 「――私は、確かに人殺しです。
  その気はなかったとは言え、確かにこの手で殺しました。
  ・・・・・・貴方は私を殺しますか?」

掠れ声の男、少女、若い男の3名の会話の間を縫って、話を戻す相棒の話術と通る声は、何時聞いても見事だと思う。
しばしの沈黙、
ややあって、金属鎧の動く音が相棒へと近づいていくのが聞こえ、
相棒のすぐ側まで来て、その音が止まった。

 「・・・俺は彼女を信じたいと思う。
  みんなもいいだろう?」

掠れ声の男が、おそらくはこのパーティのリーダーなのだろう。
意を決したような確認を取る彼の声に、残りは二人は息を飲むが、

 「うんっ!
  私も信じるよ!!」

まず少女がそれに頷き、

 「ハチフサはどうする?」

確認を取るリーダーの掠れ声に、

 「・・・やれやれ、ここで反対したら、僕が悪者じゃないか」

そういって若い男が苦笑する。
それを受け、掠れ声と少女の笑いが場に穏やかな雰囲気を醸し出した。

 「ありがとう――」

いつか相棒の声は鼻にかかったものになっており、

 「もう泣くなよ。
  キミは街に入れないだろうから色々問題も多いけど、俺が護ってやるからさ。」
 「俺『ら』が、でしょ?」

少女の早い突っ込み。
い、いや、あはは、等と乾いたリーダーの笑い声。
そして

 「本当にありがとう――
  そして、ごめんなさい。」

それは合図。
俺はこの瞬間の為に曲げた足に蓄えてあったエネルギーを全て開放し、一陣の風となり茂みから飛び出した。
飛び出した先、そこにあったのは硬直した時間。
停止した時の中、何時しか抜き放たれていた相棒の短剣が、背後よりリーダー(と思われる男)の喉元をかっきり、

 「――ぇ」

呆け顔したリーダーの体が黄色い羽になり四散。
次の瞬間、俺の抜き放ったカタナは少女の喉元に突きつけられていた。
刻が動き出す。
まだ、現状を理解できぬ少女と若い男を向き直り、俺は言い放つ。

 「――さて、まずは装備を脱いでもらおうか?」








 ソードアートオンライン 二次創作 
    『オレンジ・2』


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 夢の始まり。

 夢が繋ぐのは現。

 現と夢の間には小さな窓があるって事を知ってる人は少ないんじゃなかろうか?

 今日も俺は、その窓をくぐり夢の世界へと旅立つ。





木漏れ日が目に差し込む。
太陽の日差しが、朝が来た事を俺にしつこい程に訴えかけてくる。

 「う〜、あと5分・・・」

まどろみの快楽は手放しがたきもの。
俺は今にも何処かに行ってしまいそうなその幸せを逃さぬよう、手繰り寄せたシーツで頭を覆いなおす。
と、

 「・・・ぷっ、あはははっ」

不意に耳に飛び込んできたのは、まるで鈴を鳴らしたかのような可憐な笑い声。

 ――しまった!

一瞬で目覚めた俺は、まどろみと共にシーツを跳ね除けると、ここは病院、俺は病院のベッドの上、そしてベッドの横の座椅子に腰掛けたエミリーさんが口に手を当てていて、

 「ぶははははっ」

顔を紅潮させ、必死に笑いをたその様に、今度は俺が笑う番だった。



 

 「・・・あノ、本当にだいジョぶなんですか?」

数分後、病院の中庭に俺達の姿があった。
病室は気が滅入る、と散歩に出た俺を心配気にエミリーさんが後をついてくる。
今日は土曜日。学校は休みだ。

 「大丈夫、大丈夫。腕は折れてるけど、別に足が折れてるワケでもないし、適度な運動はしておけってお医者さんからも言われてるしね。」

もちろん嘘だ。
彼女を庇い、結果、一方的にボコられた日から3日たった。
絶対安静、と言われているワケではないが、しばらくはベッドの上でおとなしくしてろ、とは言われていたのが本当。
だが、先日は嫌なところに出くわしたとはいえ、学内でも可愛い子ランキングの上位に入るエミリーさんがお見舞いに来てくれているというのに、あの病室はいかんせん殺風景過ぎた。

 (つか、今日だけじゃないんだよな。
  看護婦さんの話じゃ、昨日も来てくれてたつってたし・・・と)

 「そういや、病室のお花、昨日エミリーさんが持ってきてくれたんだって?」

言わなきゃいけない事を思い出して、俺は歩みを止めると彼女を振り返り礼を言う。

 「そんナ、頭さゲないでください。
  助けてもらタのは、わたシです。」

しどろもどろになりながら、というか、流石外人。体の前で手を振るオーバーリアクションを見せてくれる。
なんだか、ワタワタという擬音語が似合いそうで、可愛らしい。
剣道一筋だった俺、最近の女子高生女子高生してる同級生には、正直壁を感じていたが、彼女には不思議とそれを感じさせない何かがあった。

 「・・・ぁっ」

と、神様が狙ったかのように起こった風がエミリーさんの髪を揺らし、慌てて彼女の白い手が同じく白いスカートを押さえつけた。
彼女の白い肌が再び赤く染まる。
俯いたまま彼女は言う。

 「・・・・・・見まシタ?」

いや、そこまで強い風でもないから。
苦笑を浮かべながらそう言うと、エミリーさんはほっと胸を撫で下ろしたようで、
そこで俺はようやく気づく。

この子に自分が壁を感じないのは、どこか仕草に少女のあどけなさを残しているからなんだ、と

 「・・・どコ見てるデスカ?」

ついでに薄い胸に目が行ってしまった俺を、エミリーさんの刺すような視線が咎めた。



 
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「はい、昨日の狩りの成果にかんぱーい♪」

気だるそうに突き出した俺のカップに、相棒ことリンクスが勢いよく自分のカップを叩きつける。
当然、その際、かなりの量のエール酒がこぼれてしまうワケだが、既に彼女は酔っ払い。
日本語の通じる状態ではない。
ちなみに、今の乾杯で丁度20回目となる。

昨日の三人。
リーダーは見せしめの為に、すぐ殺してしまったため、装備品はランダムドロップ。
運悪く(というか、大概の場合何も出ない)何もアイテムを落とすことはなかったが、他の二人は別だ。
横から現れた俺のネームカラーを確認し、ようやく全てを理解したのか、装備品やアイテム、通貨であるコルを頂けるだけ頂いた俺達のサイフは非常に潤っており、そのアイテム達は即日でオレンジカラーからもアイテムを無論相場よりも安くだが、買取ってくれる商人に売りつけてある。
本来なら大切な生活費として貯蓄すべきなのだが、珍しくごねた相棒に背中を押される形で、やはり相場より高い目のエール酒を大量に購入するはめとなった。
そして、昨夜につづき今夜もまだ、この宴会は続いている。

 「おらぁあ、ウルフぅ、飲めぇえええ!」

相棒の酒乱っぷりは、昨夜に増してヒートアップしていた。
付き合いきれん、と近場の茂みへと逃れようとしたところで、所詮宴会といえどこの場に居るのは二人の為、容易に拿捕される。

もう一杯だけだぞ?と念を押し、そういえば同じ事を先ほども言った様な気がしてくる。
どうやら俺も程よく酔いが回ってきているらしい。
現在いる場所は低級階層の森の中。
その中に、半径5m程の木が生えていない場所があった。
マッパーギルドの調査結果、この場所は所謂安全地帯で、モンスターから襲撃を受けることは皆無だという。
それを調べ上げたマッパーギルドのメンバー達は、既に5階層は上に居るだろうし、彼らよりも幾分強い準攻略組みと言われている連中は、そのさらに上。
攻略組みに関しては前回の情報では現在60階層くらいだと耳にした。
一応、軍の管轄内とされる階層にいることになるのだが、経験上、かえってその方が安全である。
兎にも角にも、人間より襲撃される心配はない。
加えて対モンスターの安全地帯と記されるこの場所に居る限りは安全なのであろうが、
だからと言って気を抜くのは間違いである。

 「飲みすぎだぞ。」

なんとか相棒の拿捕から逃れ、纏まらない思考を手繰り寄せ俺は吐き出すように言った。

 「ぇー、何ぃ〜、まだシラフぅ?」

そんな俺の態度に不満なのだろう。
俺に更に追加のもう一杯を、と立ち上がった彼女が、その勢いで後ろにひっくり返った。

 「・・・いわんこっちゃない。」

俺は彼女の側に転がっていたマイカップを手に取ると、ステータスウィンド開き、収納。
ついでに、広げてあったアルコール類も片付けてやった。

 「う〜」
 「拗ねた仕草すんな、大体、いい大人が未成年に酒飲ませるなよ。」

呆れたような俺の声に

 「・・・あれ?あンた、そうだっけ?」

なんて奴だ。今度こそ本当に呆れた俺は、今言ってもまた忘れるんだろうなぁ、などと考えつつも酒の事をから気を逸らすために言葉を続けた。

 「一応、まだ19歳・・・のはずらよ。
  未成年ら、未成年。」

・・・あ、立ってるのが辛くなってきた。
と思った瞬間、俺の腰がすとん、と地に着いた。そのまま仰向けにねっころがる。
こんな状態で襲われたら瞬殺されるな、と思いながらも、体が言うことをきかない。
靄がかかったまま、それでも自分なりにしっかりとしていると思うえる脳が次ぎの言葉を紡ぐ。

 「お前、確か今年れ24だろ?
  一応、保護者なんだから、こう・・・なんるーか、年上の自覚、みたいなものとか――っ?!」

ふと体の上に感じた柔らかな感触、それに目をやると、

 「ちょ、あっなに――」
 「――続けて?」

先ほどまでヘロヘロだった筈の相棒が、俺の上に重なるようにのっかかっており、細いくせに弾力性のある彼女の感触が互いのアンダーウェア越しに伝わってくる。

 「あ゛ー おおおおっ、リンクスさん?
  ちょっちょっちょっ 酔いすぎ――」

なすすべなく慌てふためき叫ぶ俺。
俺の頭上の彼女の顔に、しかたないなぁ、といった感じの表情が浮かび、俺の唇が彼女のそれに塞がれた。


どれくらいそうやっていたのだろうか?
元から酔ってなどいなかったのだろうかと思える素振りで、しっかりと立ち上がった彼女は俺に背を向けると

 「――大人だからこそ弱くなるってこともあるんだよ?」

それは風の音にすら遮られてしまいそうなほどの小さな囁き。
遠ざかる彼女の足音。
起き上がれないままの俺。
いつしか握りしめていた拳。
それだけが、ただただ熱かった。






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 夢の中
 
 エイミーが笑っていた。

 両手を広げ、くるくると笑顔で回る。

 舞い上がるスカートの裾に気づかないのか、

 幸いにしてこの場所には俺と彼女の二人っきり。

 膝上30cm。

 彼女の白い太ももは俺だけのもの。

 だから俺は気づかれぬように彼女にずっと笑顔を返していた。

  くるくる
   くるくる

 俺の目の前、

 エイミーは本当に嬉しそうに笑っていた。

 彼女の手が俺へと差し伸べられる。

 一緒に回れと?

 苦笑浮かべながら立ち上がる俺。

 はずかしくても問題なし。

 この場所には俺とエイミーだけ。

 だから俺も一緒になって回った。

 きっと顔には笑顔。

  くるくるくるくる
   くるくるくるくる――

 やがてエイミーが俺の前に丸い何かを持って現れた。

 エイミーはそれを撫でながら俺に言う。



 「ね!おおかみくん。
   ■■■■■■って知ってる?」 



                        to be...