英雄の不在4 First Impressionカラス さん作





クォーターボス
25の倍数の階層のボスは、他の階層のボスに比べて非常に手ごわいとされている
事実、25層では軍を半壊状態においやり、50層では勝手に緊急脱出する者が続出して戦線が一度崩壊し、
攻略後の攻略組全体の動きをかなり停滞させるはめとなった
だが、75層でおきたそれはそれまでとは比較にならないほどの衝撃を全プレイヤーに与えたといっても過言じゃないだろう
ボスそのものの被害もたしかにあった
貴重な攻略組のなかから24名もの被害者をだしたのは確かに痛恨事であっただろう
だが本当の悲劇はその後起こった

――最強の騎士の離反――

いや、離反というのは正しくないかもしれない
しかし、最高の英雄が一転して最悪の魔王になるとはいったい何の冗談だというのだろうか
さらには唯一の希望となるはずだったもう一人の英雄までもが、魔王となったかつての英雄に殺されたという
その日からしばらく攻略は完全にストップしていた
攻略組にひろまった混乱は下層にも広まり、アインクラッド全土がかつての・・・始まりの日以上の混乱につつまれた
下層を支配していた軍は74層で受けた被害の上に上層部にごたごたがあったらしく、
75層攻略時にはすでに半分裂状態だったとも聞いている
そして事実上攻略組のTOPに君臨していたギルド血盟騎士団は、団長の離反という最悪の事態により壊滅状態となった
最大のカリスマを失い、統制を欠いたまま、混乱は1ヶ月続いた
その混乱を納め、人々に統制を取り戻したのが彼女・・・・・・元KoB副団長『閃光』アスナだ
彼女は、崩壊したKoBを再集結させると、全攻略ギルドへ協力を呼びかけ、新たな攻略体制を作り上げた
それは強引にも思えるものだったが、最悪の状況を乗り切るためには必要なことだったと皆納得していたようだ

『同盟』

できあがった組織はだれからともなくそう呼ばれることとなった
それはあたかもかつての『軍』の再来であるかのように・・・・・・



 ソードアートオンライン IF 英雄の不在4
      〜First Impression〜



私は目の前の少女をみつめる
いや、見入るといったほうが正しいのかもしれない
美しい少女だった
噂には聞いていたが、なるほど聖女と呼ばれるのも判る気がする
女の私から見ても彼女の美貌は特出しているといっても過言ではない

「貴女は・・・バウンティーハンターですか?」

コクリ・・・と私はうなずく

バウンティーハンターとは『同盟』がオレンジ対策として打ち出した制度で
オレンジプレイヤーに賞金をかけ、それを在野のプレイヤーに狩らせるというものだ
攻略ギルドによって構成される『同盟』は、攻略のみに全精力を傾けるものであり、
人手不足も相まって雑事にかまっていられないのだという
そこで同盟外から一定以上のレベルのプレイヤーをハンターとして認定し、賞金のかけられたオレンジプレイヤーを狩らせている
基本的には黒鉄宮の監獄に入れることで同盟のかけた賞金をもらえるが、殺した場合の賞金額は半分となる
私は別にバウンティーハンターが本業というわけではないが、ここに着たのは間違いなくそれが目的であったため
否定する必要も無いだろうと思ったのだ

「アレは一般のプレイヤーの手に負える相手ではありません、手を引くのが無難でしょうね」

彼女は淡々と語る
たしかにあの男は普通ではなかった、一体何者だというのだろう

「あの・・・さっきのは一体・・・それにあの男、一体何者なんですか!?」
「先ほどの私のスキルは、【流星剣】ユニークスキルの一つです」

ユニークスキルとは、ただ一人にのみ与えられる特別なスキルだ
例外なく強力な力をもっており、その使い手はそれだけで英雄視される
彼女のような本物の英雄であれば、そのユニークスキルを持っていても何の不思議はないだろう

「そして・・・あの男は『紅剣』のシュミット、あの男もまたユニークスキル【暗黒剣】の使い手です」

――何故?――
疑問が頭をよぎる
ユニークスキルとは英雄に与えられるものではないのか?
なぜあんな――オレンジプレイヤー――なんかにそれが与えられるというのだ?

「あのスキルはオレンジネームにのみ与えられるものなのです、そして彼は間違いなく強い・・・私の知る限りでも五指にはいる腕でしょう」
「貴女よりも・・・ですか?」
「互角、といったところでしょうか・・・1対1で確実に勝てる自身は私にもありません」

彼女の瞳を見る
何を考えてるのかわからない・・・色がないのだ

「とにかく、彼に手を出すのはやめたほうがいい、忠告しましたよ」

それだけ言うと、彼女は身を翻し、主街区の方へ歩き出す

「あ、あの!」
「なんです?」

思わず呼び止めてしまったが、何か言いたい事があるわけでもないことに気付く

「また会えますか?」

彼女は振り返り、私と目を合わせて言う

「貴女がこの世界からの脱出を諦めないなら、最前線でまた会いましょう」

そう言うと、彼女は今度こそ街へと姿を消すのだった


『閃光』『黒の聖女』『救世主』
彼女を語る言葉はいくつもあれど、わたしが見た彼女とはどこか違う気がした
あの目はそうだ・・・・・・3年前に見たあの目に似ている
あの男・・・・・・・・・茅場晶彦の硝子の様な瞳に・・・・・・・・・



 〜To be continued〜