英雄の不在3 〜私の死んだ日〜 | カラス さん作 |
2014年11月7日 あの日私は死んだのだ・・・ 今ここにいる私はただの残りかすでしかない・・・たった一つ残された黒い衝動に突き動かされているだけの、ただの残りかす ソードアートオンライン IF 英雄の不在3 〜私の死んだ日〜 ギィィィィィィン 耳障りな音・・・が鳴り響く それは突然の出来事だった アインクラッド75層・・・クォーターボスの例にもれず、熾烈を極め、絶望的な被害を出したその戦いが終わり、皆が放心していたその時 彼が動いた 何が起きたのがすぐに理解できたものはいなかっただろう 「キリト君、何を――」 私の目に映ったそれは、とても信じられるものではなかった・・・いや、信じたくないといったほうが正しいかもしれない システムメッセージ『Immortal Object』 いったいあれは何なんだろう・・・ 不死存在・・・死なない存在 そんなのありえずはずがない、あるとすればそれは・・・ キリト君の声が聞こえる 『茅場晶彦』 その名前はこの世界では禁忌といってもいい私たちを縛る呪いそのもの 嘘だ・・・そんなのありえない・・・わからない、わからないよ・・・ 「団長……本当……なんですか……?」 団長が・・・私の恩人であり、常に目標でもあった最強の騎士ヒースクリフが茅場晶彦? 彼の語る『ネタバラシ』は淡々と進む それは酷く現実感のない話のように聞こえる 嘘であって欲しい、夢であって欲しい そんな祈りにも似た思いが私の心を支配しているからだろうか 「よくも――――ッ!!」 叫びが聞こえ誰かが動く ヒースクリフが何かを操作し、それを止める ストン 同時に私の体から力が抜け落ちる 「あ……キリト君……っ」 一瞬目が合う 彼の目は怒りに燃えていたように見えた 「キリト君、きみには私の正体を看破した褒美を与えなくてはな。チャンスをあげよう。今この場で私と一対一で戦うチャンスを。無論不死属性は解除する。私に勝てばゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウトできる。……どうかな?」 嫌な予感がする 自由にならない体を必死に動かし、首を振る 「だめよキリト君……! あなたを排除する気だわ……。今は……今は引きましょう……!」 焦燥が胸に広がる だが、彼の決心は変わらない様だった 「死にに行くわけじゃ……ないんだよね……?」 必死に笑顔を浮かべようとする 彼を心配させるわけにはいかないのだから 彼と唇を重ね、しっかりとその手を握る 「わかった。信じてる」 そうだ、彼は私がただ一人心のそこから信じられる相棒なのだ 何も不安に感じることはないはずだ なのに何故だろう 私の心に広がる不安は、徐々にその色合いを深めていく そして・・・彼がその一言を口にする 「……悪いが、一つだけ頼みがある」 「簡単に負けるつもりはないが、もし俺が死んだら――しばらくでいい、アスナが自殺できないように計らってほしい」 頭の中が真っ白になる 今彼は何と言ったのか 死にに行くわけじゃないとそう言ったじゃないか 「キリト君、だめだよーっ!! そんなの、そんなのないよ――っ!!」 イヤダ そんなのは許されるわけがない 彼のいない世界で生きていくなんて、そんなことができるはずがない 私の思いをよそに、二人の戦いは始まった ギィィィン それは、まさにアインクラッド史上最高の戦いだった 最高の剣士と最強の騎士の戦い 驚くべきことに、どちらも一つとしてソードアートを使用しようとしない 黒衣の双剣が人間業とは思えぬ速度で不可視の斬撃を叩き込み 白衣の盾がその神速の剣閃の全てを叩き落す 仮にこの体が動いたところで、私に何ができるというのだろう この中の誰一人としてあの戦闘に介入できる者などいないであろう それはまさに次元の違う戦いだった 彼の剣は加速していく それは先の決闘の時の比ではない だがその速さとは反比例するかのように私の不安は増大していく 嫌な予感が止まらない 「うおおおおおお!!」 私の不安が乗り移ったかのように、彼が叫び声をあげる そして―――その瞬間が訪れる――― <<ジ・イクリプス>> 激しい光が二人を包む キィィィィン 金属音が戦いの終わりを告げる 目の前の光景(せかい)がスローで流れてゆく 彼が左手にもつ白の剣は砕け、ヒースクリフのもつ紅の剣が振り下ろされる そして時間が止まる 脳裏によぎるのは幸せだったあの日々 それはもう戻らない大切な日々 グラリと彼の体が崩れ落ちる 彼の唇が動く 頭の中は真っ白で、何を言っているのかなどわからない そして 彼の体が光に包まれ、霧散する 「い・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」 世界が反転し、意識が途切れる そのあとの記憶はない 気付くと私はベットの中にいた ここは・・・たしかセムブルクのプレイヤーホーム(わたしのへや)だ 半年ほど前この街が開いたときに一目でその美しい町並みを気に入り、購入した その後しばらく内装などで攻略を休んだが、あとで61層の出現モンスターをきいて、不謹慎にも休んで正解だったと思ったものだ いつか彼を部屋に招くために、内装には徹底的にこだわったものだ そしてその夢はかない、さらには手料理まで振るうことができたときには天にも昇る心地だったものだ 彼と暮らしたあの森の家ほどではないが、愛着は持っていたはずの自室 だが今の私の目にはそれは酷く無味乾燥なものに見えた お気に入りだった家具がただのガラクタに見える 世界がまるで影絵のようだ 私の目にはもう何も映らない・・・空っぽな心 ―――何で私は生きているんだろう――― 1ヶ月 長いのか短いのかすらわからない時間 死ぬことすら許されず、ただ生ける屍として人形のようにすごす日々 私の目には何も映らず、私の耳には何も聞こえない・・・唯一つの単語を除いて 『ヒースクリフ』 彼が死んで、あの男が生きてるなんておかしいじゃないか そうだ、そんなことが許されるはずがない そうだそうだそうだそうだ あの男だけは殺さなくてはいけない 殺す殺す殺すころすころすころすコロスコロスコロス 血盟騎士団は崩壊していた 団長が最悪の裏切り者だったのだから、それも仕方のないことだろう 最強の騎士が最悪の敵だったという情報は全てのプレイヤーに絶望を与えたといっていい 75層のボスによる14名の被害に加え、二人の英雄のうち片方は死に、片方は敵となったのだ 最強ギルドは崩壊し、英雄は消え、今後のボス攻略では逃げることさえできないことが予測される 私は、私の個人的な復讐のためにその絶望を利用した 雑多な攻略組を一つにまとめあげたのだ そのためにはなんでもした コネは最大限に利用したし、力を背景とした交渉すらためらわなかった そして一つの組織ができあがる 人々はそれをこう呼んだ 『同盟』 それは私の復讐のための道具 全てはあの男を裁く、その瞬間(とき)のためだけに・・・・・・ 〜To be continued〜 |