ORANGEヤマチ さん作





SAO二次創作

≪ORANGE≫



俺は夢を見ている。
あの暖かな日々のことを。
あの頃はリーダーやみんながいて・・・そして、彼女がいた。
みんな暖かな人たちだった。
あの頃、ビーターであるがため周りの人間から拒絶され、一人で強くあろうと必死になっていた俺を、彼女は暖かな光のもとへ導いてくれた。
リーダーも、他のメンバー達も、俺がビーターであることを知りながら、快く受け入れてくれた。
彼らの心の暖かさは、意固地に凍てついていた俺の心を、解きほぐしていった。
だから誓ったんだ。何があっても、この暖かな人たちを守り抜いてみせるって。

そう・・・だから、後悔なんかしてない。
たとえこの手が血に染まろうとも、彼女を守ることが出来たのだから・・・。
橙色に染まった俺の名前を見て、彼女は何度も泣きながら俺に謝った。
・・・そんなに自分を責めないで欲しい。
君を悲しみから守るため剣を取ったのに、そのことで君が泣いてしまっては本末転倒じゃないか。
そう言って、俺は苦笑した。
彼女を守った証と思えば、このオレンジも誇らしく思えてくる。
ただ、一つ後悔するとすればそれは・・・もう、みんなと共に入られないということだ。
オレンジプレイヤーの烙印はビーターの比ではない。
俺が傍にいてはみんなにも迷惑がかかると思い、俺は別れを言いにリーダーの下へ行った。

案の定、みんなは俺のことを引き止めてくれた。
もう、それだけで充分だった。
ビーターである俺を受け入れてくれて、更にはオレンジプレイヤーとなった俺でさえも「仲間」だと言ってくれる彼ら・・・。
あぁ、こんな人たちだからこそ「守りたい」とそう思えたんだ。
だからこそ、俺が傍にいることで彼らを危険にさらすわけにはいかない。
オレンジプレイヤーである俺を引き止めてくれただけで、俺には充分だった。
この先彼らと別れても、俺の心が再び凍てつくことはないだろう。

もう、それだけで充分だったのに、みんなは俺が出て行くことを許そうとはしなかった。
もう、止めてくれ・・・決心が揺らぎそうになる。
終いには、自分達もオレンジプレイヤーになると言い出したみんなを、これからもメールで連絡することと、『ある約束』をすることでなんとか納得させた。
『ある約束』・・・それは、現実での再会。
そう、これで終わりなんかじゃない。
いつかこのゲームをクリアして現実で再会しようと、みんなと誓った。
この世界で現実の話はタブーだ。
だけど俺はそれかまわず、みんなに現実での連絡先を公開した。
みんなも現実での連絡先を教えてくれた。
・・・この未来への希望がある限り、俺は戦い続けることが出来るだろう。
俺は最後にみんなに「絶対に死ぬなよ」と言った。
そしたら彼女に「君が一番危ないんでしょうが」と頭を小突かれた。
彼女は笑っていた。
みんなも笑っていた。
俺は・・・うまく笑えていただろうか?
別れは笑顔でと心に決めていたのだ。
だから必死に涙は我慢していた。
だから部屋から出て、扉を閉めるまでは泣かなかった。
・・・それ以上は無理だった。
嗚咽が漏れた。
涙が止まらなかった。
これじゃあ、部屋の中のみんなにも聞こえてしまうのではないかと危惧した。
でも、俺以上に大きな声で泣いている人がいた。
ドア越しに聞こえてくるは彼女の泣き声だった。
リーダーの叫びも聞こえた。
・・・まったく、防音のドア越しに聞こえるって、どれほど大きな声だよ。
俺は涙を苦笑に代え、剣を支えに立ち上がる。
・・・大丈夫。
みんなから貰った暖かさがある限り、俺は大丈夫だ。
そう、自分に強く言い聞かせた。

それから俺のオレンジプレイヤー(OP)としての生活は熾烈を極めた。
OPを忌み嫌う「軍」と、OPを狩る存在「オレンジプレイヤーキラー(OPK)」の襲撃は毎日のようにあったし、また、オレンジギルドに属そうとしない俺を、快く思わないOPから襲われることもあった。
だけど、それでも俺は戦い抜いた。・・・誰一人として殺めることなく。
他プレイヤーを傷つけること自体が既にOPとされるだけの行為であり、この場で人を殺めようと俺がOPであることに変わりはない。
また、殺さずに済ませることは、殺して切り抜けることの何倍も難しい。そのせいで何度も命の危険にさらされてきた。
・・・それでも尚、俺が不殺の信念を貫けるのは「みんな」がいてくれたからだ。
毎日のように届くみんなからのメール。それが俺の心の支えだった。
メールの内容は色々。こちらの安否を気遣うメールだったり、近状報告だったり、有益な攻略情報だったりした。
また、なにか大きな出来事があると、みんなが同じことについてメールを送ってくるのだが、それぞれ物事の捉え方に違いがあるせいか、誰一人として同じような文面にならず、どれも楽しめた。
俺はそれらのメールを何度も何度も読み返した。
それだけで、どんな困難にも立ち向かっていける勇気が湧いた。
みんなの暖かさがある限り、俺もまた暖かい人であれるだろう。
・・・たとえオレンジの烙印を押されていようとも。