サンバン。4ロロ さん作







「ん?また来たのか?アシルゼン」
「やぁイチさん。その言い方はひどいなぁ」
なんてことのない、11月6日の話だ。


    if  サンバン。 4


イチやマルチがホームタウンとしているアインクラッド4階、主街区ブレインベルズ。
その街に今日も男はやってきた。
白と赤を基調とした外套とハーフプレート姿の男の名はアシルゼン。
イチとの戦いの日から今日に至る2日、この街に現れてはイチと接触を繰り返していた。

「あんたもしつこいなぁ。大体、攻略のほうはいいのか?」
怪訝そうにイチは男を見る。
今日もやはりアシルゼンはこの街に来ていた。
「今日はそのことで着たんだよ」
「ぉ?やっと俺に参戦要求?」
アシルゼンがこの街に来ることには2つの理由がある。
1つはイチの勧誘と監視。
イチに少しでも気の変化があればすぐさま入団させる、と団長命令で張り付いている。
2つ目はイチへの前線からの連絡係としてだ。
どこの攻略ギルドにも所属せず、下層にホームをもつイチには他に連絡する手段が無いからだ。
「いぁ。そういう事じゃないね」
いつものニヤニヤとした笑顔は無く、その顔は真剣だ。
こわばった声ではっきりと言葉を発している。
「は?じゃあ何を伝えにきたんだよ?」
「…お別れかな」


アシルゼンは語る。
「明日、攻略が再開される。もう知ってると思うけど…。」
「75階はあともうボス戦だけだと聞いているね」
アシルゼンの尋常でない態度に、イチも真剣な顔つきになる。
75階のボス戦が辛くなるという話は、ここ数日の新聞を見れば分かることだった。
「そう。この数日進行がなかったのはボス戦の準備をしていたんだ。その一環で僕は君をスカウトにきたわけだしね」
「俺に付きっぱなしで他に仕事無かったのかよ…」
「僕は当初参戦予定は無かったからね、だからスカウトにまわされてたのさ」
「…当初?」
イチはその言葉に息を呑んだ。
では今は─…。
「お察しの通し、ボス戦に参戦することになったんだ。牽制、ヒットストップ、強制ブレイク要員だけど」
最後に小言で「僕弱いしね」と付け加える。
うなずいて「弱いよな」とイチも同意を示す。
「良かったじゃん、精鋭に認められたってことだろ?」
「それがそうじゃないんだよ。…当初予定されていた人が…さ」
その沈黙が何を意味しているか、イチはすぐには分からなかった。
「…ッ!」
たっぷり考えてイチにもその意味が伝わった。
それはつまり
「…欠員。死んだ…の?」
「…鈍いなぁ」
アシルゼンは下を向いてうなるように答えた。
「君のとこにスカウトに来た日、攻略大手で出し合って偵察隊を組織した。うちも大手っていっても、団長がいつもいう「ギリギリ」でさ。うでっぷしがたつのがいったんだけど…」
語尾にいくにつれその言葉は消え入るように小さくなっていく。
イチは自然と息を呑んでしまう。
「全滅、したのか?」
「いぁ、フロアに足を踏み入れたやつらは帰ってこなかった。20人の偵察隊のうち、10人だ」
「10…」
2人ともその言葉を最後に押し黙る。

10人の攻略組を失う大きさは1000人の下層プレイヤーを失うより絶望的な数字だ。
人の命を天秤にかけるのは良いことではないが、それでもその価値は1000の下層プレイヤーのそれに値する。
それはニブくてまだまだ子供のイチにも理解できる。
ましてや各攻略大手が出し合った精鋭たちである。
今後の攻略に大きな支障を生み出すのは間違いないだろう。
偵察すら観光できないほどの相手となると、これ以上の犠牲者は免れない。

精鋭ではなく、死地に赴く死番…アシルゼンはそれに選ばれた。


俺たちの短い沈黙を破ったのは、アシルゼン。
その顔は無理やり作ったような「笑顔」だった。
「そんでまぁ、うちも2人欠員してさぁ。予定の補充に僕が加えられたのよ」
作り笑い、むしろ苦笑いとも取れるその言動に彼の覚悟を見た。
そして恐る恐る聞く。
「…死ぬつもりなのか」
「相変わらず変な人だなぁ。まさかぁ?」
「…そっか」
俺たちの会話のやり取りは次第にか細くなっていく。
まるでそのままどちらかが消え入ることを示すような…お世辞にも心地よい空気ではない。
「ま、お別れになるかもしれないから、さ。一応報告に…」
あいまいな態度に、俺の中で何かがはじけた。
我慢できなかった。
犯罪防止コードに阻まれながらも、俺の右手は彼の頬を叩いていた。
「…っんだよそれ…。死ぬ気だなんてゆるさねーぞ!」
久しく沸かなかった、他人への怒り。
安易に命を投げ出そうとする、その行為に。
「…僕だって死にたくない!」
では何故、そう問う間もなく、彼はしゃべり続ける。
「…だが、だれかがやらなきゃならない!死ぬかもしれぬと、分かっていても!」
彼は犯罪防止コードに阻まれた俺の右腕を掴んだ。
死を恐れない覚悟。
それが見えてしまった。
また知り合いが、友達が─…。
俺にこの覚悟を静止する力、資格は…残念ながら見つからなかった。
「…なら!約束しろ!…絶対帰ってこいよ」
何故だか分からない。
だが涙が出た。
自分に沸く感情がなんなのか、もうわけが分からない。
「…やっぱりイチさんは変わった人だ。僕のためなんかに涙流してくれて…」
彼の目にもうっすら涙のようなものが浮かんでいた。


「なら!約束しろ!…絶対帰ってこいよ」
何故か彼は涙を流した。
始めてあった日からたったの2日。
2日とも僕は彼を付けまわし、昨日に至っては1日彼とともに狩りに出た。
一緒に食事をとって、笑って、剣を取り合い衝突もした。
2日。
人生最後にするには、上出来に楽しい2日だった。
彼が僕をうざったいストーカーかなんかだとおもっていてくれてもかまわない。
ただ最後に喧嘩別れでもして、死ぬ覚悟でボス戦に望もうと思ったのに。
その涙に、決心が揺らいだ。
「…やっぱりイチさんは変わった人だ。僕なんかのために涙流してくれて…」
僕も泣いてしまった。
もうじき30にもなるが、不覚にも人前で。
もう少し彼とともにいたかったな。
とても、楽しかった。
だが…誰かがこの世界を終わらせなければならない。

…─迷いを捨てろ。
あの人の目となり剣となり戦うと決心した日を思い出せ。
僕は…俺はッ!


「かえったらまた、デュエルをしよう!一昨日の決着をつけよう!」

その言葉を最後に、アシルゼンはイチに背を向け歩き出した。
「アシルゼン!」
イチの呼びかけにアシルゼンは答えない。
ゆっくり確実に、転移門へ向けて歩いていく。
「…帰ってこいよなぁ!」
閑静なブレインベルズの街に、イチの悲痛な叫びが響いた。
…─アインクラッド時11月6日12時24分。

たった2日でお互いを強敵(とも)と呼べるにいたった、男達の永遠の別れであった。





あとがきのスペース。

書きながら泣きそうでした、ロロです。うわーん(ノд`;
どんどん光臨が先延ばし…そして壮大な妄想へorz

3-3の失敗から3−3.5を経ていたります、3−4。
どうでしょう…。
なんかもうこれはこれで1つのショートストーリーかなぁ…。
つかサンバン登場でサンバン死亡とか、可愛そうだっorz
物語作る人、漫画家小説家文字書きさんともに自キャラが死ぬときってどんな気分で書くんでしょう…。
アシルゼーンッ(ノд`;

ちょこっと解説
<<死番>>
古来幕府の命で京都の警備をしていた新撰組に存在した当番のことです。
切り込み突入の際、真っ先に飛び込む人間を指します。当番制で公平。
死地に飛び込む番、ということかなと解釈し、その意で使いました。

<<ちなみにアシルゼン君>>
中の人は関東で小学校教諭をしている28〜30設定。
学級崩壊という現代社会の社会問題最前列に立つひょろながい男。
白赤の外套に、白地に赤ラインのハーフプレート。
ハーフなのは敏捷ペナルティを抑えるため。
たまにアルシゼンとかアシンゼル(?)とか間違える。