時は魅せ、龍は喰らう。 | 屠龍 さん作 |
〜始めに〜 始めましての人もいつも見かけている人もコニャニャチワ。 くのりさんのHP内、掲示板にてたまにニョッキリ生えては身のうちを話しては消えていく屠龍です。以後お見知りおきを(´ω`) この度、SAOの外伝作品を掲示させてもらえるということで、一先ずの序章というものを、拙い文ながら書かせて頂きました。 しかしながら、いくつかお詫びの程を・・・ この作品を書き始めたのは随分前・・・具体的に言うと「SAO3が開始したころ」です。 故にそのころはまだ公開されていなかった設定(主にキャラ人気投票で作られた)に逸脱している部分が多々あります。 設定を練り直して1から・・・と思えるほど若くも無いので、あくまでSAOの設定をベースにした「別の話」だということを 認識していただけると幸いです。 それでは、次章の投稿がいつになるかは不明ですが、今後とも宜しく御願い致します 〜〜〜〜 世界は『流れ』だ。 大河とも言い換えることのできるそれは、世界の全てを前へ横へ押し流し、時には河から外れさせる。 ・・・程度の差こそあれど、しかし確実に砂利を、魚を、岸を巻き込んでいく『本流』。 だが『本流』があるというのは、つまるところ数多の『支流』もあることを意味する。 数えるほどの小さな砂利をゆっくりと押し流し、少しだけ岸を削り取り、最後には『本流』へと還っていく。 今語られようとしている物語も、そんな『支流』の一つ。 壮大な流れの中で静かに幕を開け、ゆっくりと幕を閉じた・・・小さな物語(ストーリー)。 Sword Art Online 〜Another Story〜 木々はざわめき、鳥はさえずり、河はせせらぐ。 この世界に来て心底よかったと思える美しいものたち。 現(うつつ)では二度とは感じられないと思っていた『綺麗』がここにはあった。 ・・・いや、この世界を幻と考えるのは危険だな・・・・・・ 目を閉じてそう考える。 大木の高枝に背を預け、仰向けに寝そべっているが、視界に映るのは陰鬱とした金属の天井だ。 この世界には空がない。いやあるにはあるが、この世界自体が浮いているので天という意味での空はないと言えよう。 「・・・この『綺麗』に星空でもあれば、さぞ美しかろうに」 そうつぶやいてからアイテムポーチに収納してある手製の煙草(正しく言うならば、煙草に似た物)と火打ち石を取り出すと、 1本を咥え出して火をつける。 一息吸ってから、ゆっくりと紫煙を吐き出す。現世ならば目をしみさせる煙が吐き出されるのだが、 この世界ではそういったリアリティは排除されている。 ただただ、頭の中に再現される体中の血の管をニコチンが行き渡っていくような錯覚を楽しんでいた。 この世界、Sord Art Onlineの囚われて(こう表現される場合が多いが、自分ではそうは思っていない。あくまで一般表現だ) はや、2年経とうとしていた。 趣味でOnlineGameを楽しんでいた俺を一瞬で虜にし、半年しかなかったcβもほぼ24時間入り続けた。 製品版を無償でもらえるという好意にももちろん甘えさせてもらい、今もこの世界にいるわけだが・・・ そう、先に述べたように「囚われた」のだ。客観的に見てだが。 この世界に降り立った時のことを思い出す。 「最初に言っておく。諸君らが今存在している世界は最早単なるゲームではない。諸君らにとっての、唯一の現実だ」 この世界の創造主、天才プログラマー茅場晶彦の言葉だ。 「残念ながら諸君らは二度とログアウトできない」 さしもの俺も、聞いた時は焦った。いや、そこらじゅうに発狂した者や泣き叫ぶ者がいたことを考えると、冷静であったと言えるかもしれないが・・・ ただ、ウインドウの中にログアウトの項目が無い所、何事も無かったようにざわめきだすNPCを見ると、これが現実なのだということを 再認識することができた。 そう思うと逆に心が湧いてくる。 普段眠らせていた感情が浮き上がってきた。 ・・・これは、俺が心底望んでいた世界ではないのか?・・・ 自由に己を鍛え、綺麗と思えることを行い、日々を過ごすことのできる世界。 気が楽になった。つまるところそういうことか。 俺は一人笑った、心底嬉しかった。 ・・ガサリ・・・ 不意の音が、回想に浸っていた俺を現実に引き戻した。 といっても、近くで鳴った音ではない。習得している「広域聴覚」スキルによる支援により聞こえてきた音だ。 俺は起き上がると、音が鳴った方向を確認し直ぐにMAPを開く。 ・・・Popしたか。少し近づいて狙えば・・・ そう考えて、素早くMAPを閉じると、方向のめぼしを付けると、足場のしっかりした枝を選んでから一息深呼吸する。 「・・・いくか!」 そう呟いて、枝の腹を思い切り蹴って高々とジャンプする。空中で姿勢を整えて別の木の枝に降り立ち、続けざまに跳躍する。 何度か木々を渡り一本の広葉樹で踏みとどまると手早く背中に吊るしてあった得物を取り出した。 それは・・・弓だった。アーチェリーに用いるような競技弓でもなく、コンパウンドボウのような物でもない。 弓道ぜんとした和弓である。 それに矢を一本番える。癖で弦をつがえる右手小指にももう一本矢を持つ。 弓道で言う「一手」である。 物見した先をジッと見つめるとカメラのズームのように視界が移動する。「遠視」スキルだ。 視線の先にいる獲物を確認する。 大木に対の眼が張り付き、触手のような枝がウネウネとしなっている。 醜悪なその大木の腹の中央には赤い切れ目があり、そこにはノコギリのような歯を覗かせていた。 間違いない。狙っていた獲物「オーカスメイプル」だ。 俺はゆっくりと弓を頭上まで持ち上げる。弓道で言う所の「打起し」だ。 そこからゆっくりと「引分け」の動作に入る。 すると、目線右上に相手へのダメージ予測値と命中率が表示され、上昇しはじめた。 「ダメージ1860 80%」 何度も狩ってる間に覚えた数字、獲物のHPは20000ジャストだ。1割以下のダメージである。 この世界で弓を使うものが稀有なのはいくつか理由がある。 1つは、命中率の低さである。これはもっともな話だ。距離が凄まじくあるとはいえ、弓スキルをマスターしている俺でさえ オーカスメイプルのような大型Mobへの命中率が80%なのだ。普通なら50%がいいところなのだと新聞で読んだことがある。 2つ目は、弓という性質上の問題で敵に気付かれる前か、かなり間合いをとっていないと使えないという点だ。 基本的にほぼ全てのMobがアクティブ属性のこの世界において、先手を取るというのは容易なことではない。 3つ目は、味方に当たる危険性だ。弓で放った矢は、目標を外れても、当たり判定は残ったままだ。 この世界、というよりMMORPGというジャンルに置いて主な狩りはパーティでのグループ行動である。 そして、この世界には魔法という概念がないため、基本的に狩りは近接攻撃で行われる。 故に、例えば援護のために弓を使ったとしても、命中率が50%そこらの矢が外れた場合、その流れ矢が向かうのは 敵に群がっているパーティメンバーということになる。蘇生という概念がないこの世界において、無駄にHPを減らすという 行為は最も忌み嫌われる行為だ。これが素でこの世界において貴重な「ナカマ」を失うの恐れるのは至極当然といえよう。 4つ目・・・個人的にはこれが本音なんだろうとは思うが。ようは「地味」なのだ。 この世界の売りであるシステムアシストによる、高速で連続に剣を振り出す爽快感。 相手の攻撃を映画のヒーローのようにパリィングしたり回避したりできる格好よさ。 そういったものを犠牲にして、さらには上記3点のリスクを背負ってまでまともに弓を使おうという奴はいないのだ。 ・・・もっとも、見た目の格好よさという点で、貴重な重量制限を無駄にして背中にしょってる奴がいるというのも又事実ではあるが。 しかし・・・4つ目に関しては世間の常識が間違いなのを俺は知っていた。いや合っているが間違っている、といったところか。 引き分けを終え、「会」に入る。 「ダメージ2300 86%」 一応確認はするものの、意識は全くしていなかった。 通常はこのままシステムのアシストに任せて矢を放つだけである。 しかし・・・俺はこれに過去に現実の認識されていた世界で培った「技」を用いる。 やや角見を強めにし、妻手の肘を引く。押手を強め、肩の力を極限まで抜く。 ・・・矢の先に赤いライトエフェクトが灯った。 ビュバッ!!! 「当たったな。」 放った瞬間そう確信し呟く。 通常、弓スキルで放った矢は現実世界同様緩やかなカーブを描いて飛ぶ。そして的中を知らせるライトエフェクトが光る。 これが一般常識だ。 そう、4番目で述べた「地味」というのは「弓スキルにはSowrdArtが無い」という通説のためだ。 それは正しい。なぜならば・・・ ズバンッ!!! 広域聴覚によって聞こえてきた的中の音を確認し、MAPを確認する。 Mobのマークである赤い点は消失していた。 右上にシステムメッセージが表示される。 それにチラリと目をやり、小さく笑うと、次の獲物を求めて移動を始めた。 『ダメージ36400 和弓術スキル: 真剛矢 発動確認』 |