The Great Fall Rhapsody 〜 偉大なる滝の狂詩曲 〜左馬 さん作





SAO二次創作 < The Great Fall Rhapsody 〜 偉大なる滝の狂詩曲 〜 > presented by 左馬(hidari-uma)



#2

「おーやつ、おやつ♪」
 コタロウがぱくついてるサンドイッチはティアの御手製……ではなく、ブラフォードが用意したものだった。中層プレイヤーでも料理スキルを上げている者は少ない。冒険中の食事がテイクアウトした出来合い物なのは、ままあることだ。このパーティはどうやらメンバーが順繰りに各地のレストランで美味を集めてくるルールらしい。
「今日はどこのか当てちゃるからね〜。えっとそうだ、これは38層の『フォーシーズン』じゃない? ね、ハルはどう思う?」
「あ、ああっ。そうだな。……じゅ、17層の『七転八倒』て線はどうだろ」
「え〜?」
 ティアの問いかけに狼狽えてるのが丸分かりだぞ少年。そりゃビックリ料理開発で有名なPCレストランじゃねーか。薄焼き鶏肉と野菜に酸味と芥子の利いたソース、至極まっとうで美味なサンドイッチ様になんて事を。
「残念、61層セルムブルグの『グランドグレイス』だ」
 正解を告げるブラフォード。
「へえもうそんな上に店が出来てるんだ〜。でもあそこ凄く高級向けじゃなかったっけ?」 
「観光がてらに見つけてな。ちなみにそれが一番安かったのだよ」
「でもすっごく美味しいよ〜! 野菜の組み合わせとか、ソースとか作り込んでるよね!」
 話し込むティアとブラフォードをよそに、うなだれているハルキ。非常に分かりやすい。そして、ちょっかいを出すコイツも。
「ねえねえハルキハルキ」
 口の周りをソースまみれにしたまま、コタロウが話し掛ける。
「……あんだよ」
 触るなオーラ全開で半眼のハルキにもめげず。
「落ち込んでるときにはナゾナゾが一番だよ! ボクが一つ出したげる!」
 出た。こいつお得意のパターン。そもそも、こいつの謎々好きが事の発端だったのだ。 

 クエスト検証時のNPC総当り――要は、NPC全員に話を聞いて回ること――が行われた際に、キーパーソンと疑われたリストには"謎かけ爺さん"ことガロン爺さんも載っていた。
 この爺さん、話しかけると「やあ、いい天気だね。ところで、こんな謎々を知ってるかね?」と二言目には簡単な謎々を出題するのだ。答えが合ってれば「いや、あんたは偉い。褒美にいいものをやろう!」と1コルのキャンディを渡して去っていく。間違ってれば、髭とエール腹を揺らしてふぉっふぉふぉふぉ、と笑う。放っておけば、同じNPCの町の子供たちをつかまえて「ところで、こんな謎々を……」とやりだすのだ。時々キャンディも渡している、NPC同士なのに。単に趣味で製作されたNPCだという声がほとんどだったが、何か特別な謎々に答えると『グレートフォール』のヒントがもらえるのかもしれない、という僅かな可能性も捨てきれなかった。ミリゼンタの街開きから2週間後には、もうガロン爺さんの謎々一覧作成に挑戦した奴がいた。得られたのは、おそらくテキストデータベース由来の数百個に及ぶ謎々問答集(しかもまだまだ新規の問題あり)と、千個以上ものキャンディの山だけだった。……暇人め。それだけやって成果も出ず、しまいには直接「『グレートフォール』の事を何か知ってるか?」との質問攻めが再開されたが、やはり爺さんは謎めいた光を瞳に湛えて、ふぉっふぉふぉふぉ、と笑うのみだった。
 放置されてもめげずに爺さんは通りすがりのPCやNPCをつかまえていたが、そこにコタロウが引っ掛かった。あっさりキャンディをせしめたコタロウは、なんと逆に謎々を出し返した。「ガロンさんがボクのこと知らなければ、ボクはボクのままでいられる。でもボクのことをガロンさんが知ってしまえば、ボクはもうボクじゃいられない。さあ、ボクはだ〜れだ?」と。結構有名な謎々をコタロウ流に改変したのだが、データベースにはその形じゃ載っていなかっただろう。眼を白黒させていたガロン爺さんは、やがて、ふぉふぉっと笑って孫を見るように眼を細めた。「降参じゃよ。いったい答えは何かね?」答えを聞いた爺さんは、うむと深く頷いてコタロウを手招きした。「いや、あんたは偉いもんだ。褒美にいいことを教えてやろう! 実はな……」
 そして、冒頭に繋がるわけだ。

 ティアから聞いた話を回想し終わっても、まだ謎々地獄は続いていた。
「じゃあさ〜、これは? 『座ると見えるけど、立つと見えなくなるもの、な〜んだ?』」
「だから知らねーって。……ああ分かった、お前のことか?」
 さりげにひどいな少年。
「ぶぅ、失礼な! 違うよ〜。もちっと真面目に考えてよ〜」
 そろそろ出発しようと、俺は腰を上げながら答えた。
「それは『足の裏』ですね、コタロウ?」
「正解〜! やっぱアーベルさん、分かってるねっ!」
 次のルートを確認していたブラフォードが、俺たちを呼んだのはそのときだった。

「やはり事前の情報にはなかったな、これは」
 安全エリアから次エリアへ少し進むと、二又に分かれた路が奥へと続いている。難易度とモンスターの種類、入手できるアイテムの違いがあるのだが、問題はそれぞれ入口に掲げられている鈍い銀色のプレートだ。
「"As if you are knights"と"As if you are soldiers"……だってさ」
 安全エリアに戻った後、ハルキが思い返しながら発音し、ティアがホロキーボードを宙に浮かべてメモを取る。
「『もし汝が騎士なら』『もし汝が兵士なら』? さっぱり分からないわ。複数形なのも何で? 大体、騎乗動物は何種かいるけど……ナイトなんていないじゃない? あ、ごめんなさいリーダーのことじゃないの。クラスよ、クラス」
 慌ててフォローを入れるティア。
「お気になさらず、姫。しかしこれは何か意味があると考えざるをえんな……」
 顎に手を当て考え込むブラフォード。コタロウも真似をして考える振りをしている。いや、奴も真剣に考えているのかもしれない。
「"Don't sit on a wall"に続けて考えるなら、"As if"は『〜なら』ではなく『〜であっても』の逆接かもしれないな……」
 ここまで来て英文法に悩むことがあるとは思わなかった、と苦笑するブラフォード。
「順接でも逆接でもいいけどさ、これは何かの警告かな? それとも、この先のモンスターに関係してるってか?」
 ハルキの疑問はもっともだ。それは俺も気になる。
「警告なら、はっきり意味が取れるような文章にするだろうな。モンスターについては、『騎士』側の通路にはクリア時にタツノオトシゴ型のフラグMobが出たそうだ。英語にしてもシーホースだが」
 すらすらとブラフォード。
「馬ってとこは辛うじてかぶってるかなあ。それに過去形なのは?」
 ティアが聞き返す。
「倒されてアイテム変化した。今はもういないと思う」
 一同首を捻る。俺も聞いてみた。
「ボス部屋扉の文句は分かっているんですか?」
「一応調べてはみたのだが……何通りかに変化していたらしく、全てはチェックしきれていないな」
 いらいらした様子でハルキが叫んだ。
「ああもう、うざったいな! 行って見れば分かることだろ? マージンは足りてるんだしさ」
 一理ある意見だ。仮に少々難度の高い敵が出現しても、俺がいる。もし本当にどうしようもなくなれば、転移で還ればいい。結晶無効化空間はなかったはず。
「……よし分かった。進もう。ただし、全員に言っておく。アーベル殿にもお願いしておく。一、何か予想外の緊急事態が生じた場合、すぐさまミリゼンタに転移。二、転移後は、待機メンバーに連絡して状況を把握するまで動かない。いいな?」
 ハルキもティアも、コタロウさえも頷いた。俺も黙って首を縦に動かしたが、心の中で自分のみに適用される項目を付け加えた。

 三、ただし、転移脱出より、ティアの生存を最優先とする。

(#3へ続く)